カニエ・ウェストのYeesuz論について寄稿したものの転載記事。“Uchumegane 9 American Issue”(初出)

"Kanye West - October 26, 2013" by U2soul

“Kanye West – October 26, 2013″ by U2soul

21世紀型のロックスター

カニエ・ウェストはソーシャルメディアとヒップホップの申し子なんだ。彼はあらゆる種類の音楽とポップカルチャーについて心得ている。こいつは本当に大きなパレットを使って遊んでるんだ。その顛末が”Yeezus”なのさ。このレコードには最高に美しくて偉大なる瞬間がいくつもある。そのうちの一部はいつも通りのものだけど、とにかくこいつは本当に、本当に、本当に才能があるんだ。彼はこれまで標準とされてたレベルを本気で引き上げようとしている。他のやつらがやってることは彼の足元にも及ばないし、もはや同じ星にいるとさえ思えない。 —— ルー・リード(from “The Talk House”)

カニエ・ウェストが愛おしくてたまらない。その自己愛が過ぎたバカバカしい言動から、とにかく目が離せない。それなのに彼の音楽を聴いていると、なぜか強い気持ちになれる気がする。

W Magazineにおいて「スキャンダルマグネット」と名付けられ、彼本人も「オバマ政権時代の嫌われ者」(”Power”)と自嘲するように、カニエ・ウェストは「喜劇の主人公」として、いつも超人的なエゴを晒している。しかし議論の的となる一方で、類まれなる創作を続け、The Atlantic誌に「iPhone世代最初の真の天才」で「アメリカのコンテンポラリーミュージック界におけるモーツァルト」と賞賛されたり、冒頭で引いたとおり、生前のルー・リードにも手放しで褒めちぎられている。

もしかすると、これが21世紀型の「ロックスター」の姿なのかもしれない。20年前の「ロックスター」だったアクセル・ローズは、精神カウンセラーとトレーナーを同伴していたが、カニエは現在、音楽コンサルタントとデータアナリストを引き連れている。こんなカニエ・ウェストが「アメリカ」という国を、どれほど体現しているのかわからないが、「アメリカ」における何かを象徴しているのは間違いないだろう。

とにかくカニエ・ウェストは、これまで「喜劇の主人公」と「ロックスター」の両方の役を、同時に演じてきた。2009年のMTVビデオ・ミュージック・アワードで泥酔して乱入したとき、すこし冷却期間を置いて、キング・クリムゾンの「21世紀の精神異常者」をサンプリング(”Power”)して神々しく復帰した。また性器を晒したセルフィー(自画撮り)を女性にリークされたときは、”Runaway”という曲をリリースし、その単調なピアノリフの上で、今の心情を素直に明かした。いつも彼は、確かな信念と率直な態度によって、ピンチをチャンスに変えてきたのだ。

症状としての”Yeezus”

彼女はかなりの誇大妄想狂。いいと思うよ、誇大妄想狂で。
Kanye West “Paranoid”, 2008

では、彼が”Yeezus”(カニエの呼称”Yeezy”と”Jesus”の造語)という「神」の役回りを引き受けた経緯を、リリックから探ってみたい。

まずは2003年に、カニエが起こした瀕死の交通事故について歌った”Through The Wire”で「神への感謝」を述べ、2004年の”Jesus Walks”では「神」と対話したと語り、「主は我とともに歩む」と歌っている。すこし間を置いて、2011年にJay Zと共演した”No Church In The Wild”という曲では、「王にとって暴徒は、神にとって王は、何も信じない者にとって神は、何の意味もない」と、「神」の不在を問うに至った。さらに2012年の“New God Flow”では、「モーゼは杖で海を割るんじゃなかったのか?YeezyはHova(訳注: エホバから発展したJay Zの呼称)と契約したんじゃなかったのか?」と、「神」の座の交代と継承をほのめかした。そして”Yeezus”において、ついにカニエ・ウェストは自分が「創造主」(”I Am A God”)であると言い放ち、一部のメディアは彼を「救世主(Messiah)」と呼んで歓迎した。

これが「神」との交信記録で、彼の神観の変遷であるならば、カニエ・ウェストは「アメリカ」を中心とした「神」なき世界において、自ら”Yeezus”という「神」を名乗り出たと考えられないだろうか。

しかし臨床心理士であるデイヴィッド・アンドリュースは、このようなカニエの言動を「救世主コンプレックス」というユニークな症状であり、両手にあまるほどのエゴと誇大妄想の合併症による精神疾患であると診断している。

その診断結果によると、カニエは精神分析用語で言うところの「防衛機制」の作用によって、環境への不適応を補うために、自我を安定させる行動を選んでいるらしい。自ら「カニエという名は虚栄心と同義だ」と言うとおり、いつも自分を「現存するもっとも偉大なラッパー」だと信じ込ませながら、虚勢を張っているのだ。

ステージに神の山を用意して、その頂で天から差す光に照らされる姿や、”Yeezus”のプロモーションで行った、世界10都市のさまざまな建物に、彼の顔がアップされたプロジェクション映像などを見ていると、システム哲学者のアーヴィン・ラズロが「21世紀の神はホログラムとして投影される」と予言したことを思い出さずにはいられない。カニエ・ウェストは、ただのセレブリティとしてではなく、全知全能の神人として尊敬され献身されることが、どうしても必要なのである。

"Kanye West - October 26, 2013" by U2soul

“Kanye West – October 26, 2013″ by U2soul

創造主の考える世界のアーキテクチャ

リーダーがいて、フォロワーがいる。おれは飲み込む側じゃなくて、飲み込ませる側でありたい。
Kanye West “New Slaves”, 2013

パリのロフトスペースで制作されたアルバム”Yeezus”は、最終的に80年代のミニマリズムへと傾倒していった。その行き先のひとつは、アルバムのプロデューサーであるリック・ルービンによるヒップホップのプロダクションで、もうひとつはカニエのホームであるシカゴ発祥のアシッドハウスであった。またそこに、彼がデビュー以来アップデートを続けるヒップホップと、トラップやシカゴ発のドリルといった最新の音楽を、ミニマルな構成のうちに結びつけていき、快作”Yeezus”は完成した。

ミニマリズムというコンセプトは、カニエがパリで出会った建築やデザインの文化が影響している。NYタイムズのインタビューによると、彼はル・コルビュジエのデザインにインスピレーションを受け、実際にコルビュジエの家を見に行ったり、またミニマリズムの標語”Less is more.”で知られるミース・ファン・デル・ローエの哲学に関心を注いでいたそうだ。

これまでもカニエは、レム・コールハース主宰の建築家集団OMAと仕事をしたり、自宅のデザインをお気に入りのイタリア人建築家に任せたことで知られている。だからアーキテクチャの哲学に行き着いたのは、当然のなりゆきだったのかもしれない。

では「創造主」カニエ・ウェストは、この世界のアーキテクチャをどのように考えているのだろうか。

おれはデザインを通じて世界が救えると本気で信じてるし、現にすべてのものは構築(architected)されるのを必要とされてるんだ。(……)ユートピアは実現できると信じてるけど、おれたちを先導してる奴らには、気高さや品格や風情のかけらもない。この上なく愚かなくせに、政治的な駆け引きだけは誰よりも得意なやつらだ。だからおれは決して政治家なんかじゃない。いつも徹底してポリティカル・コレクトネス(政治的な公正さ)の逆を行くことにして、率直であろうとしてるんだ。 —— カニエ・ウェスト(from “Harvard Graduate School of Design”)

これは彼がハーバード大学の建築学部に訪れ、学生たちに向かってゲストスピーチしたときの記録である。この言葉は「神」によってではなく、その仮面を脱いだ「人間」カニエ・ウェストによって語られているように聞こえる。そしてこのような率直な物言いが、彼の「人間」的な魅力を支えているのではないだろうか。

最初に示したカニエの二面性を振り返ってみよう。「ロックスター」の彼は、クリエイティブな奇蹟を起こす「創造主」である。また「喜劇の主人公」である彼は、メディアが伝えるように、ビッグマウスによって奇蹟を予言する「救世主」と言えるだろう。そしてカニエ・ウェストはその狭間に立ちながら、「Yeezusコンプレックス」という奇病を患っている。

しかし彼の音楽を聴いたとき、その率直な物言いを聞いたとき、われわれは「人間」として本来的な問いを突きつけられた気になる。「われわれは何のために生き、何と闘い、何のために死ぬのだろうか」と。”Yeezus”という名の「神」は、極めて「人間」くさい。

「人間」を創ったのは「神」だが、「神」とその創造の物語を創ったのは「人間」である。カニエ・ウェストは、この「人間」らしい論理的な矛盾と葛藤を引き受けることによって、「神」の存在意義と創造性を手に入れているのかもしれない。

"Infographic: Inside the Mind of Kanye West" by Column Five

“Infographic: Inside the Mind of Kanye West” by Column Five