ÉKRITS(エクリ)から出版した5冊目の書籍『制作へ』は、キュレーターで文筆家の上妻世海によって書かれた2016年から2018年までの論考集でした。表題となる書き下ろし「制作へ」のほか、これまで書籍、雑誌、Webメディアなどで発表したテキスト全13本が所収されています。OVERKASTは出版社として、書籍の編集から発行、メディアによるブランディングをおこないました。

Toward Forming — Forming a new experience

この自社プロジェクトは、コンテンツ編集やブックデザインだけでなく、流通やプロモーションまで含めて考えながら進めていきました。筆者の協力もあり、青山ブックセンター本店では発売初週の総合売上で第一位を獲得したほか、大学で人類学の研究会のテーマにされるなど、高い評価を得ることができました。

啓蒙ではなく魅惑する

このプロジェクトが発足したのは、筆者の上妻さんからこれまでの論考をまとめて書籍化したいと打診されたときでした。すでに彼の記事は自社メディアのÉKRITSで取り上げており、非常に高く評価していたので、その提案を断る理由はありませんでした。また日々のやりとりのなかで、彼が今考えていることや書きたいことを聞き、表題となった書き下ろしの「制作へ」が、彼の代表作になることにも確信がありました。
 
この書籍のデザインは、巻末のインタビューで筆者が語っている「啓蒙ではなく魅惑する」ということが、そのままコンセプトになっています。この本を読まなければならないと説得するのではなく、ただ惹かれて手に取ってしまう、そんな誘いかけです。つまり、読む気にさせて買ってもらうのではなく、買ってもらって読む機会が増やせるような流通を心がけたのです。これは筆者本人の態度を体現したものでもありました。

メディアで変わるテキストとの関係

出版する前から、この本に掲載されたテキストのほとんどは、Web記事として公開されています。だから、テキストを読むことだけを考えると、わざわざ本を買う必要性はありません。同じように『制作へ』の前に出版した『エクリ叢書 I』も、ÉKRITSのWebサイトで記事が読めるのですが、それでも紙の本が売れたのは、読書体験が違うからなのだと考えました。
 
Web記事で読めるものをわざわざ紙の本にする理由は、メディアによって読者とテキストの関係を変えることができるからです。テキストとの関わり方が変わるとき、ブックデザインは本文以上に語ることになるのです。

Ékrits, Website

この本のブックデザインを担当したのは、OVERKASTのパートナーでアートディレクターの神村誠氏。できるだけ文脈を分断すること、大量生産のオブジェクト的な質感を表現すること、近年のVETEMENTなどに見られる過剰なファッション性を加味することなど、書籍のコンセプトを要素に分解しながら、デザインの足場を築いていきました。

ブックデザインに込められた意図

発売当初「例の赤い本」と呼んでいただけるほど印象的な装丁は、小口塗りで可能な色から逆算した偶然の産物でした。また表題のデジタル化されたブラックレターは、16世紀頃のフラクトゥール体(ドイツの書き文字)を参照しつつ、ビットマップ書体のディテールを盛り込んだものです。フラクトゥール体はナチスの時代に禁止されたものですが、そういった強い文脈の背景を無視して、見た目の機能だけで使うという態度にも、今回のコンセプトは息づいているのです。

その装丁をシュリンク加工したのも、思い切ったアイデアだったと考えています。出版物には、書籍名・本体価格・ISBN/JANコードを裏表紙に掲載し、売上スリップを本体に挟み込まなければならない決まりがあり、それによって意匠が制限されてしまうのですが、今回はシュリンクにシールと売上スリップを貼り付けることで、真っ赤な背景にタイトルだけがレイアウトされた表紙を実現することができました。この特殊パッケージのために、印刷所はアート・ファッション系の書籍を多く手がけているところにお願いしました。また発売に合わせて、書籍のコンセプトを体現した特設ページも作成しました。

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発売前重版と制作の連鎖

こうした準備の結果、店頭に並ぶ前から多くの人に興味を持っていただき、発売前にも関わらず重版が決定。発売後には、さまざまな書店でフェアが展開されたり、トークイベントに多くお声がけいただいたり、大学の研究会のテーマになったり、10+1や読書人といったメディアにも取り上げていただきました。その結果、発売週に青山ブックセンター本店で総合売上ランキング1位、かなり年末に近づいた発売日にも関わらず紀伊國屋じんぶん大賞2019にランクインするなど、大きな反響をいただきました。その後も、この書籍に触発された記事が書かれ、制作の実践としての連鎖も起きていったのです。

Scope of work

Planning
Book Publishing
Concept Making
Creative Direction
Project Management
Content Editing
Web Development

Team

Planning, Publishing, Editing, Concept Making, Creative Direction, Information Architecture: Hiroshi Obayashi (OVERKAST, Inc.)
Editing: Noriyo Asano
Assistant Direction: Namino Sakama
Art Direction, Design: Makoto Kamimura (Kamimura & Co. Inc.)
Web Development: Masayuki Emi
Printing: Hakkou Bijutsu

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