ヤマハ株式会社のスマートエデュケーションシステム(SES)事業において、新規サービスであるiPhoneアプリ「Kittar」のローンチをお手伝いしました。このプロジェクトでは、事業企画段階から参画して、デザインプロセスの啓蒙活動やクリエイティブディレクション、ユーザーインターフェース設計までをサポートいたしました。
Yahama Kittar – Enjoy playing the phrase
「Kittar」は手持ちの楽曲を自動解析して、イントロ、Aメロ、Bメロ、サビといった「フレーズ」単位で取り出し編集でき、テンポ変更やトランスポーズしての再生で、気軽に楽器演奏の練習を楽しめるアプリです。かつて大林が、ヤマハ株式会社に常駐してグローバルブランディングを進めていたこともあり、このプロジェクトにも初期段階から参加させていただくことができました。
デザインプロセス、ふたたび
2000年代後半から2010年頃まで、本社に常駐してグローバルブランディングのプロジェクトに参加するなど、かねてから大林はヤマハ株式会社と深い関わりがありました。そのときに知ったのは、自分たちで手を動かしながら考えるというヤマハの企業文化でした。なので、このプロジェクトの初期段階でも、既存のデザインプロセスをそのまま導入せず、MITマーティン・トラスト・アントレプレナーシップ・センターとデザインスプリントの手法を組み合わせ、チーム用にカスタマイズすることにしたのです。
また大林にとって、デザインプロセスを考えることは、2000年代中盤の大きなテーマでした。その最大の成果が、当時そこまで普及していなかった「インタラクティブシステムの人間中心設計プロセス(ISO 13407)」を、野村総合研究所のシステムフレームワークに最適化して、設計者の判断基準やタスクやアウトプットを定義するという研究開発でした。
文化や様式の気配を感じる
かつて研究開発をしていた経験は、このプロジェクトでも生きたのですが、今回は利用者を中心に設計するアイデアだけでなく、サービスブランドの観点からも検討を重ねました。それは利用者のパーソナリティや利用のコンテキストから類推するだけではなく、文化や様式の気配を感じながらサービスを考えるやり方です。つまり、先にこのサービスがブランドとして成立する文化や様式を想定して、そこから意匠やインタラクションの振る舞いなどを考えていったのです。
このプロジェクトを進行していた2015年頃は、アップルに代表される西海岸のヒップスター的な文化の影響力が、目に見えて低下していった時期でしたが、その一方で、アップルのようにユーザーインターフェースのインタラクションがブランドイメージを決定付けることも定番化していました。今回のプロジェクトでも、OVERKASTのパートナーでありアートディレクターの橘さんと協働して、グラフィックだけでなくロゴのモーションやインターフェイスのアニメーションといった形で、その価値を具現化していってもらったのです。
インターフェース設計によるブランディング
「Kittar」は、楽器演奏を練習するために、楽曲をフレーズ単位で切り取り編集できるアプリです。このアプリのテクノロジーとしての価値は、利用者に使ってもらえばもらうほど楽曲を学習していき、自動解析するフレーズが洗練されていくことでした。
設計で考えなければならなかったのは、演奏しながら操作するときと波形編集に集中してるときで、まったく利用状況が違うということです。したがって、楽器を演奏しながら操作するモードを「プラクティス」、集中して波形を編集しているときの操作するモードを「エディット」と名付け、それらを明示的に切り替えられるように設計しました。プラクティスモードでは再生と停止を簡単にできるように、エディットモードではより正確な作業ができるようになっています。ユーザーインターフェースデザインの設計思想が、アプリ自身の態度を表しており、ブランディングそのものになっているのです。
このプロジェクトでは、途中から打ち合わせもスタジオに場所を移し、何度もプロトタイピングを繰り返しました。そして、「Kittar」らしくフレーズを並べた日取り(11月11日11時)に、無事アプリがローンチされたのでした。
Scope of work
Concept Making
Creative Direction
Information Architecture
Client
Yamaha Music Japan Co., Ltd
Year
2015
Team
Concept Making, Creative Direction, Information Architecture: Hiroshi Obayashi (OVERKAST, Inc.)
Art Direction, SI Design, UI Design, Web Design: Tomoki Tachibana (Shed, Inc.)
UI Design: Masamune Itamoto (Shed, Inc.)
Web Development: Naohiro Urayama (Shed, Inc.)